ゆかのんかズよみごと!!

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今日の一作vol.332 バースデー…当たり前のように誕生日を祝える。なんて幸せなことなのか。

バースデー (ディアプラス文庫)

バースデー (ディアプラス文庫)

新聞配達をして生計をたてている百合原は幼い頃に受けた暴行のせいで、解離性同一性障害、いわゆる多重人格を発し事件を起こしていた。百合原には覚えがないことだが、その事件によりカウンセリングを受け、現在は落ち着いていた。
そんなある日担当エリアのマンションに越してきた滝本という男に出会う。
彼は知人が百合原に似ているといい、食事に誘ってくれたりするようになった。
独りでひっそりと生きていくつもりだったのに、やはり寂しかったのか、滝本と交流を持てるのが嬉しかった。
そんな中、滝本を部屋にあげた時、百合原の足の中指の欠損を見られ驚愕される。
実は滝本は百合原の交代人格の三希と付き合っていたのだった。
もう会わないほうがいいと、連絡を経って百合原は滝本を好きだったのだと気付く。そして三希が滝本と付き合っていた頃の記憶を夢として見るように。三希もまた滝本を本気で好きだったのだと実感する。
滝本もまた百合原が三希だったと知り、事件のことを調べる。エキセントリックな三希も好きだったが、穏やかな百合原をも好きになっていた。だが、百合原のことを思い会わずにいようとしたが、偶然会ってしまい、抑えることができずに抱き合ってしまう。
再び付き合うようになってしばらくして、滝本には三希が現れているのがわかった。何も問題ないならいいがと百合原には教えなかったが。


切ないけど良かった!!
こういう悲惨な経験の話は嫌な気分になるとか、主役達に共感はできても同調はできないのに、この話では気持ちが荒れることもなく、読み込むことができました。百合原も三希も互いを疎むことなく、思いやれていて、消えてしまうのは複雑だけど元はひとりの人間なのだから、百合原の中に在るのだろうと。
滝本も三希と百合原二人を受け入れて愛しているからこそ三希も百合原の中に統一されたのだと思う。

まあこういう話の中なので作者の意向というか手腕によるものなのだけど、切なさとあたたかさをちゃんと留めてくれて今年の一押しになりそうな作品だと思います。

百合原の両親による虐待ではなく、失踪するまでちゃんと愛情を受けていたからこそ百合原が元は穏やかで素直な性格で三希も百合原を守るために生まれたわけで。
犯人に復讐をするというのも事件の被害者という目線をちゃんと理解しやすいように挟んでもあり、葛藤がよくわかります。

三希の生まれた日はわからないけど、彼の希みは好きな人と猫を飼って暮らし誕生日を祝うことができるような穏やかな日々。
三希としてではないけど、百合原の中に気配は生きていて、滝本とその夢は叶う。すごくラストが嬉しい話でした。